ショートストーリー「レターセット」
久しぶりに愛でも詠うかと思って、近くのコンビニへレターセットを買いに行く。
ダークなスーツに着替えて、お気に入りのブラックハットを深くかぶる。
ラバーソールのつま先を叩けば、頭痛に際悩まされる人のように、うつむき加減でハットを手で押さえ、ムーンウォークでいざ行かん。
目的地はファミのリーマート。
ここは近くにユニバーシティとハイスクールがある。ハイキックは無い。
その関係で学生寮が点在する。
沖縄県は中城にある南上原の田舎バージョンだ。
いつもの中華食堂の前を、ムーンウォークでアスファルトをジャリジャリと決めながらにこやかに通り過ぎると、となりの学生寮から女子大生がゴミを出しに外へ出てきた。
驚愕。
半袖で出てきた。
確かにSUNはポカポカだけど、WINDがでら強いので今日は寒い。
なのに半袖。
アンビリーバボー。
ここからは本当の話だけど、その女子大生が出てきた瞬間、思わず、、、
「そりゃねぇべ」と発言してしまい、聞こえたのかこちらをチラッと見る。
一瞬、ヤバイ!変態と思われる!と思って、急に観客席を見回すハルク・ホーガンのように左に顔を振った。
何事もなかったかのように彼女はゴミを出し、歩を戻した。
閉じた自動ドアが僕を警戒している。
安堵してムーンウォークはファミのリーマートに到着。
背中越しに聞く「へいらっしゃい!」
コーヒーはSサイズ。ブラックだ。
そして今日はサンドウィッチじゃなく、お茶目に桜色のパンケーキ。
スマホで格闘ニュースを一通り読み終えると、ごちそうさまと言って、家路へと向かう。
先ほどの学生寮の前は平穏な姿だ。
さすがにもうムーンウォークは面倒くさくなったので普通に歩く。
ただいま!と言っても誰も返事するわけがない家。
冷蔵庫の稼働音だけが「ブーン」と応えてくれている。
ラバーソールはシューズボックスの中へ、ブラックハットをフリスビーのように投げ掛け、ダークなスーツはクリーニングへ。
…
あ!
…、、、
レターセット忘れた。