夜勤を終えた俺は、片手に銀色の缶ビール2本と、白い容器のカップやきそばが入ったレジ袋を、ガサガサと鳴らしながら家路についていた。
静かな町。午前3時。
近所には神社があるが、一度もお化けを恐れたことはない。むしろ本物の人を恐れていた。頭に蝋燭やら懐中電灯やらを白い紐で頭に固定した白装束の女が出てきたりしようものなら、きっと俺は失禁するだろう。そんな想像をしていると必ず行きつくのが「人類史上初めて、五寸釘で命をロックオンすることを編み出した人はいったい誰なのか。」妄想癖のある俺は、相変わらずしょうもないことばかり妄想している。
ミッキーマウスの顔をかたどった円形の青いキーホルダーには、息子からもらった手作りのお守りがぶら下がっている。3年間共に歩んできたそのお守りはもうボロボロだ。それを指ですこしよけて、銀に輝く小さな家のカギを親指と人差し指で挟み、鍵穴に差し込みドアロックを開錠する。
ガチャリ。
「ただいま」誰もいないけど、いつも言うようにしている。
手洗いうがいをする前にまずトイレ。それが俺のルーティン。
便座の蓋を開ける。ふと、便器の中の水が溜まっている部分に2つの黒いゴミが浮いているのがみえた。
「ん?なんだこれ。」
パッと見、毛虫や芋虫のような形状。長さは3~4cmぐらい、太さは0.5cmぐらいだろうか…。
「なにか落ちてきたのかな…」
ふと天井を見上げるが、それは意味の無いことだとすぐに気づく。なぜなら便座の蓋を下ろしていたのだから。
改めて、その黒いゴミを見てみる…。
「・・・こ、、、これは!?」
虫!?
動いている動いている動いている動いている動いている動いているぅぅぅぅ!
ゆっくりとモゾモゾと動くその黒い芋虫状の2つの固体に気づいたとき、トイレという異世界空間はヒャダルコの如く凍結し、ザ・ワールドの如く時を止め、俺は白目を剥いて立ち尽くしていた。
白目を剥くたいらじゅん氏(42)
「い、、、いったいこれは(ブルブルブル)」
ついさっき意味がないことを知ったはずなのに、なぜか天井を見上げる俺。トイレのドアを開けるもやっぱり閉める俺。人間というのは、本当に焦ったときに理解しがたい行動を起こすものなのだ。
「落ち着け!」
心の中で俺は俺に呼びかける。
“検索してはいけない言葉”を軒並み閲覧していたこともあれば、〇ッカ〇ットや〇ロッティ〇マンデーなどの残酷なサイト、寄生虫の動画などを定期的に観てしまう変態的な俺は、ある程度のグロ耐性があるはず。
落ち着いた。
落ち着いても白目のたいらじゅん氏(42)
まず俺が知りたいのは2つ。
1.こいつは何者なのか?
2.こいつは何処からやってきたのか?
2つ目はなんとなく想像がつく。排水口だ。そこしか考えがつかない。タンクの中も考えたが、いくらなんでも水が放出される穴から出てくることは不可能だろう。
考えをめぐらせているその刹那、、、ツー…と、背筋に冷たいものが伝う…。
「も、もしかして、、、お、、俺のお腹のなか、、、とか、、、(震)」
あやうくトイレで白目を剥いて卒倒しかけた。
「そんな馬鹿な!嘘だ!嘘だと言ってくれぇぇぇぇ!排水口だよな?な?な?な?」
こうなるとその謎の虫の正体を確実に突き止めなければならない。絶対にお腹の中に何者かがいた(いる)なんて、あってはならないことなのだ。せめて、せめて寄生虫ではないことを知れば、俺は白目から立ち直ることができるはずなのだ!
絶望的な状況に立ち向かう白目のたいらじゅん(42)
指で検索する(他にどこで検索するのか…)。困った。なんて検索すればいいのか?とりあえず打ち込む。もちろん指で。「トイレ 中 虫」「トイレ 排水口 虫」「トイレの中 水 虫」…。いろいろ試すが、どれも欲しい検索結果がでない。と、その時「便器 中 虫」で検索をかけると・・・。
いた。
いたぞ!間違いない!こいつだ!
その名は、、、
アメリカミズアブ
「ア、アメリカ、、、?」
なぜアメリカなのかは知らないが、間違いなくこいつだ。このアメリカミズアブの幼虫で間違いない。(リンクは貼らない。気になる方は「アメリカミズアブ 幼虫」で検索。かなりグロめの動画がでることがあるので検索するときは覚悟を決めて)
どうやらこいつはトイレの浄化槽に生息することがあり、まれに配管を伝ってトイレに現ることがあるらしい。
俺はホッとした。決して俺のお腹のなかから出てきた訳では無いとうことがわかったからだ。
きっとこいつは、俺の「ただいま」に「おかえり」と、応えたかっただけかもしれない…。ふっ…甚だ食えぬ虫だな。アメリカミズアブ…。
て、なるか~い!キィィモ!ただただキモイ!こんなやつトイレにジャー!だ!
たいらじゅん氏(42)
そんな俺は、いつかきっとキングヌーの「白日」を白目を剥いて歌うのだろう。
アメリカミズアブの思い出をのせて…。
おわり